文鳥クロ落つ ●文鳥クロ落つ 朝起きると、一足先に起きていた妻が妙な顔をしている。「クロが死んじゃった」と言う。 鳥籠を見ると、たしかに底にクロがひっくり返っている。目をつむり、両足は上を向いて突っ張っているところから推測するに、止まり木に止まっていて急死し、そのまま落ちたものだろう。前の晩は元気に餌も食べていたので、夜の間に、まさに「ぽっくり」逝ったと考えられる。おそらく苦しまなかったことが救いか。 シロが死んだのが先月の26日、今日が5月の26日だから、ちょうどひと月。シロが連れて行ったのだろうと、すぐに思った。 シロがいなくなってからは寂しかったのか、急に甘えるようになった。籠から出すと、妻の手の中に入って動こうとせず、しまいには寝始めるほどだった。ちょっと外出しようとすると、その素振りだけでもう盛んに鳴き立てて、こちらを呼んだ。帰宅してインタホンで「ただいま」と言うと、答える妻の背後から、ピッピッという声が聞こえていた。 元々体も小ぶりで、一度レントゲンを撮ったら、片足の指に十分神経が通っていなかった。そんなこともあってか、本能的にはしこく、しばしば「こすい」ところもあって、なんでも横入りをして一番に美味しいところをさらっていくので、やや鈍重なシロなどはいつも腹を立てていたものだ。とはいえ性格は優しくて思いやりもあり、よくシロの毛づくろいなどをしてやっていた。尤もこれも、最後にはしつこいので嫌がられたが。まあ「先生に取り入るチビの優等生」といった役どころか。好奇心も人一倍旺盛だった。 しかし最期はシロ同様、やはり雄々しかった。われわれには末期の姿を見せずに、その分悲しみを増させることもせず、さっぱりとして別れを告げた。ああもしてやればよかった、こうもしてやればよかったとも思うが、それはやはり後から思うわけで、まずは大往生と言えよう。まさに「寿」命だったのだろう。 最初に雛としてわが家に来たとき、シロとぴったり体を寄せ合っていた姿を思い出す。 本名、九郎。弘法大師に高野山で案内した狩場明神の遣い犬の名にあやかった。享年8。変わらず傍にいてくれてありがとう。シロとともに、元気で天に帰れ。 [0回]PR