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電車の音

 今住んでいるところからは、夜になると電車の音がよく響いてくる。それで、思い出を誘われる。鉄道の記憶を記しておく。
一.祖父母の家に、泊まりがけで連れて行かれる時があった。夕方に家を出る。井の頭線で渋谷駅を出発するころは、外は真っ暗だ。神泉のトンネルを出たら、もう駒場東大から永福町までの沿線は、ただの野っ原だ。走っていく電車のすぐ前の線路だけが、暗い前照灯に照らされてぼんやりと見えるだけだ。淋しいところへ行くものだ、と思って、小さいころの私は乗っている。
二.風呂に入る。風呂場の窓の外から、宮下公園あたりを走る、山手貨物線の蒸気機関車の汽笛が聞こえてくる。「ぼおっ」というふうに聞こえる。寝床に入る。寝室の窓からは、東横百貨店の時計塔の文字盤の明かりが見える。「長い針が上まで来たら寝ようね」と言われる。まだ寝たくないのだが、仕方ない。山手貨物線の音が聞こえる。
三.家族で鶴巻温泉に来ている。日帰りで来て、部屋で夕食を食べ、帰るのだ。客室の窓からは、小田急線が走るのが見える。もう海老名あたりから先は、茶色い旧型車両しか走らない。飽きず眺めているうちに日が暮れる。暗い中、窓の明かりをちらちらさせながら、小田急の電車が走ってくる。走っていく。
 こう書いている今も、電車の音が響いてくる。中原中也の詩も、頭に浮かぶ。

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