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なぜこんな目に

 なぜこんな目に遭わねばならないのか、と、夜になるたび思う。だがすぐに、「もっと苦しい目に遭っている人は沢山いるではないか」という、内心の声が響く。藤村を見よ。子どもを三人も失い、妻を失い、過ちを犯した。だがあくまで、自己に沈潜していくのみだ。外に感情を投影しない。よく無感覚、無表情にならずに済んだものだ。とはいえ、笑った写真はない。そして、晩年はしばしば脂汗を流し苦しんだ。
 よくもあの運命を選んで生まれてきたものだ。
 もし私があの世に戻って、もう一人の、ディレクター然とした私が試写室の薄暗い席から立ち上がってこちらにやってきて、にやにや笑いながら「やあ、どうだった、今度の巻は」などとほざいたら、私はすぐさまその私に殴りかかって、奥歯と肋骨とを折ってやるつもりだ。
「とんでもない役を振りやがって。あんたは前の背もたれに足かなんかを上げて、スクリーンの俺が右往左往して苦しむのを、手を叩いて楽しんでいたんだろう。一寸の虫にも五分の魂だ。覚えておけ」
「冗談じゃない。お前がこの役をやりたいと言ったんだ。それに、よく考えろ。このシナリオを練ったのは、お前すなわち俺、俺すなわちお前だぞ」
「そんな利いた風なおためごかしなど、信じないし、聞きたくない。さあ覚悟して殴られろ。何本がいい。一本か、二本か、三本か。何なら奥歯じゃなく、肋骨にしてもいいんだぞ。それから、俺に手をついて謝れ。だが謝っても、俺はお前をぜったいに許さんからな」
 こんな光景を、夢想する。

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