○Let It Be承前
Let It Beのバージョンについて、しばらく書く。←司馬遼太郎風。
ビートルズだけでも、世に膾炙しているのは、少なくとも5つある。1つは、言わずと知れたシングル版。こちらは確か(今調べるのは面倒なので)、ジョージ・マーティン・ミキシング版。最後の繰り返しが2回。そして、ビリー・プレストンのハモンドオルガンがはっきり聞こえる。ジョージ・ハリスンのソロも、このテイクのものが一番いいと思う。
2つ目は、LP版。これがいわくつきのフィル・スペクターの「音の壁」バージョンだ。最後の繰り返しが3回。ビリー・プレストンのオルガンにさらにいっぱい被さっている。どうもジョージのソロは2つで、背後に小さく、シングルバージョンのテイクが流れているようだ。もちろん、ジョージ・マーティン版に比して重ったるい。LPで聴いたとき、「あれっ、これって、違うじゃない」と思った。
3つ目は、映画版。なにが違うといってよく分からないが、とにかく違う。ちょっと端折っているというか。ポールのピアノも多分レコードとは別だろう。
4つ目は、「これは便利だ! アルファベット順」というとんでもない3枚組CD、そして海賊版でよく知られる、「1、2、3、4バージョン」というもの。冒頭にポールが「ア、ワン、トゥー、スリー、フォウ」と掛け声をかけて始まる。前半までは何とかまともに行くのだが、途中でポールが歌詞を間違えて、そのあたりからはもう練習テイクと割り切っているのが分かる。そして最後にピアノもややぞんざいに「ダダダダ、レティッビー、レティッビー」となるが、これが案外荒削りでいいのだ。私は自分でピアノを弾くときには、わざとこれをやったりすることもあった。ちなみに、このCDに収められている「サムシング」もまた、最後に延々とジャムセッションの続くバージョン。
そして5つ目が、naked版。ポールは元来こうしたかった、というものだが、保守的な私のようなファンには、もう物足りない。ここに使われているジョージのソロ・テイクはあまりいいとは思えないし(ケルト・フォークロア的テイストが少ない)、ビリー・プレストンのオルガンもはっきりしない。やはり、70年の衝撃が、いまなお鮮烈だからだろう。むしろこのバージョンなら、ウィングス解散後の全世界ツアー(これもCD版とビデオ版では違うのではないか)の、大幅に変えたものの方が、ポエティックでパセティックで、私はずっと好きだ。
まあざっと、こんなところ。
後は、アイク・アンド・ティナ・ターナーのカヴァー版も、なかなかよいが、アレサ・フランクリンのにはかなわない。
そうそう、それから蛇足だが、ビリー・プレストンは、ポールの名曲「ブラックバード」を、実にゴキゲンなアレンジでカヴァーしている。