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文鳥騒動、愁嘆場

●文鳥騒動、愁嘆場
 夜、元ゼミ生の会合があるので支度をしていたら、文鳥の一羽、クロの鳴声がおかしい。澄んだ音色でなく、かすれた声。見ると首を何度か振り、ちょうど何か咽喉に詰まったものを出そうとしているような様子。生れて6年目で、とくにクロは最近すぐ息切れして腰を抜かすようになったので、急いで救急病院に電話して連れて行く。前にも一度診てもらったところ。
 竹籠に移すと、怯えて尾羽を広げてひごにしがみつき、嘴を開けて息をつき、眼を回しそうになる。この籠に入れられるとろくなことではないというのを知っているのだ。タオルをかけ、なだめながらタクシーで急行。
 もう夜間診療の時間だが、すぐに女性の医者が出てきて診察してくれる。まだ怯えてはいるが、鳴声は普通になりかかっている。「籠を嫌がっているし、いま体に触るとむしろストレスになるかもしれない、高齢だししばらく様子を見て、また悪いようでしたら再来してください」ということで終わり。
 ちょうどそのころ、待合室の方でなにやら騒々しくなった。気の急いたような女性の甲高い声がする。診察室から出ると、猫と飼い主の女性がいて、その人がいきなり妻に話しかけてくる。野良猫に噛まれたそうで、内にも入れず放りっぱなしで餌と一緒に出しておいたのが悪かったと掻き口説き、あげくには感情の堰が切れておいおいと泣き叫びだす。愁嘆場。猫は痛みに耐えながら押し黙り、むしろ飼い主の嘆きを迷惑そうに聞いている。
 妻が女性をなだめすかす傍らで、私は目立たぬよう、猫にレイキをかけておく。やがて会計も済み、われわれは病院を出たので、その後はどうしたかはわからない。医者や職員たちは落ち着いたもので、こうしたことが頻繁に起こっていることをうかがわせる。籠を抱えて外を歩きながら、妻と「可哀想だね」と語り合う。後悔先に立たず、しかし人間は後悔する。だからどういう心持と態度で日々を送るか、猫もまた教えてくれる。無事に治ってくれることを祈った。
 私はそのまま元ゼミ生との会合に出るために妻と別れたのだが、入ったメールによれば、文鳥クロはその後の経過は良好で大丈夫ということで一安心。帰ってから元の籠の中で澄ましているクロに「3分の診察で4200円かかりましたぜ」と厭味を言ったら、みるみる申し訳なさそうな顔をして落ち込んだので、「大丈夫、治ればいいんだよ」と言ったら泣きそうになっていた。猫のことがあったばかりなのに、愚か者の酔余の暴言と思って許してくれるだろうか。 
 

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